生産における「事故」はなぜ起きるのか
2023.11.08
繊維製品の生産に「納期遅れ」や「縫製不良」のトラブルは付きもの。
そして他の業界に比べてその頻度が多い傾向を感じるのは事実か。
【アパレルは多品種で自動化が難しい工業製品】
市場に出回る多くの製品は、製造機械や加工機械で生産可能なものです。
アパレル(生地や糸の一部を除いて)製品は、そういった中では、未だ多くの工程を人の手に頼って生産される、量産型工業製品と言えるのではないでしょうか。
いわゆる労働集約型産業の典型例と言えます。
このことが、様々なトラブルを生む原因を内包しているのは、おそらく間違いないと考えられます。
労働集約がなぜトラブルを生みやすいかということは、例えば1種類100枚のポスターを制作するのに、100人が手書きで書く場合と、1台の印刷機で100枚印刷した場合の、品質のブレを考えればわかると思います。
それではアパレルにおけるトラブルは、今後も諦めの中で進めるしかないのでしょうか?
【納期対策】
① 余裕を持った納期設定をする
② 資材の移動距離・時間を最小限に抑える
しかしこれは一部の大手企業や、不変のコンセプトを持った商品以外については、現実的ではありません。
①を実行する場合、トレンドをある程度犠牲にしたモノづくりに挑むことになり、ファッションの魅力を、大いに削いでしまう可能性が高まります。
②については言うまでもなく、国産生地や、海外生地を別の海外産地で生産し、日本に輸入することで成り立っている、大部分の製造を否定してしまうことになります。
現在日本の縫製キャパは、アパレル製品の総生産数量ベースで1%台とも言われてます。
またコスト面からも、最小移動距離・時間での生産は、極一部に限定されてしまいます。
【縫製不良対策】
① 製造機械を活用する
② オペレーターの技術水準を徹底管理する
①についてはCAD/CAMは相当導入が進んでいます。
また、自動ミシンの導入で、ある程度改善や効率化が図られている商品も実在します。
例えば、定番のジーンズやメンズスーツなどでは、かなりの工程で機械化が進んでいますし、裁断、縫製、後加工などほとんど自動化されている工場も実在します。
しかしレディース、メンズに関わらず、コロコロとデザインが変化する製品には、不向きであり、いまだ問題解決への道のりは長いと思われます。
②については非常に簡潔な解決方法はあるでしょうが、その為には有能な工場や人材を多く集める必要があります。
ただし、有能な工場や人材確保には、社会情勢を見るまでもなく、多くの加工賃や人件費を準備しなければなりません。
それを実行できるアパレルメーカーは、どれくらい存在するでしょうか。
【工芸品に近い工業製品】
私が長く抱いてきた感想ですが、(アイテムにもよりますが)アパレルの成果物というのは、我々が考えているよりも、ずっと工芸品や民芸品に近い工業製品という考えです。
寄木細工や竹かごなどの製作に近いということです。
そのように考えることによって、改善策とその限界(今の生産構造における)を理解し、受け入れることが、現実的なのではないでしょうか。
それは決して「あきらめる」という意味ではなく、起こり得るものとして「受け入れ態勢を整える」という考え方です。
既に皆様が実行されている「徹底した検品」とその後の準備です。
【入口と出口】
生地が投入された現場の多くの場面で、裁断と共に(又は事前に)検反が行われていると思います。
生地屋でも実施されていますが、なぜか?その後に発見される、生地不良も少なくありません。
他の資材についても同様です。
個人的な経験ですが、この時点で不良の発見をし、原料の差し替えや補填を行う対策を講じることで、縫製中に発見された場合と比べて、30%-40%の納期効率化が可能になると感じます。
これが「入口対策」の一例です。
そして「出口対策」としては、既に行われているように、徹底した検品で市場に出る前に、対策することです。
工場検品、検品所、プレス加工所検品などで、徹底した検品することで、不良品の不意な流出をストップし、回収やアフターサービスに割かなければならない、費用や労力を抑えることです。
【リカバリー】
それでもなお、アパレル製品から、「納期遅れ・不良品」の事故を完全に排除するのは困難です。
部分的には「工芸品」であるのですから、もうそれは、ある程度受け入れる準備をしておくことが必要かもしれません。
幸い日本国内では、輸入品であっても、インキング・生地修整・縫製お直しといった、技術背景が整っています。
またコラボ企画や、メディア販売予告商品など、納期遅れが許されない(ペナルティが伴う)商品などの場合、短期生産可能な工場も極少数ですが存在します。
リカバリー体制(背景)を事前にリサーチし、「至急・緊急」に対応できる、最後の砦を構築されておくのも、ひとつの方法だと思います。
【なお…】
当事業所が11年の間に依頼を請けた、リカバリー案件の元となった要素・要因で、最も多いケースは実はここまでの中に含まれていません。
・各担当者の失念・ミス
・各担当者のキャパオーバー
意外かもしれませんが…これが実態です。
「仕事とは人あってのこと」「最も重要なのは人材」なのです。
Takeshi Yomo